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東京高等裁判所 昭和30年(ツ)5号 判決 1955年6月28日

上告人 高橋房治部

右代理人 佐々野虎一

被上告人 伊藤法準

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人は合式の呼出を受けたのに拘らず、昭和三十年五月二十七日午前十時の本件第一回の口頭弁論期日に出頭しなかつたので、民事訴訟法第三九六条、第三七八条、第一三八条によつて陳述されたものとみなされた上告状によれば、上告の趣旨として、「原判決を破毀して、更に相当な判決」を求める旨、上告理由書によれば上告の理由として別紙上告理由書のとおり記載されている。被上告人は主文第一項同旨の判決を求めた。

上告理由第一点に対する判断。

原判決は、上告人主張のように、上告人の本件宅地に対する抵当権取得登記を訴外小泉米三郎が上告人の委任状を偽造して抹消手続を了したことを認定すると共に、その理由として証拠に基いて、右抵当権によつて担保されている債権が初めから存在していなかつたことを認定している。右認定のように、上告人の抵当権の登記を委任状を抹造して拌消したことは、たとえ、その債権がなかつたとしても不法であることは上告人主張のとおりではあるが、もともと、登記は現実の権利関係をそのまま公示せしめる為の制度であり、現実の権利関係に符合しない登記が記載されている場合には、現実の権利関係に符合するように登記簿上の記載を抹消又は変更するのが不動産登記法の精神であるから、上告人の本件抵当権の登記は被上告人に対する関係では抹消さるべき関係にあつて、被上告人に対しては本来右抵当権の登記の維持を求める権利を有しない関係にあるものといわなければならない。故に、上告人の抵当権の登記を抹消したのは違法で、上告人がそれがために損害を生じたとすれば、金銭賠償を請求するなればかくべつ、被上告人に対し現実の権利関係に合している現在の状態を、現在の権利関係に合していない状態えの回復を求める本訴請求は理由がないと認めるを相当とする。これと同趣旨にでて、右抹消登記の回復登記請求を理由なしとした原判決は、憲法第一二条に違背するものではないから、この点に関する上告理由は採用するに由ない。

上告理由第二点に対する判断。

不動産登記法第六五条にいう登記上利害関係を有する第三者とは、その実体上の権利の有無に拘らないで登記簿上の記載のみによつて判断すべきものであることは、上告人主張のとおりである。しかしながら、登記上利害関係を有する第三者の承諾書又はこれに対抗することを得る裁判の謄本は、登記権利者と登記義務者との間の登記手続を現実になすときに必要なのであつて、両者の間で訴訟で登記手続を請求するだけのさいには、なんら必要でないのである。故に、原判決が利害関係を有する第三者のことについてなんら触れることなく、上段説明のような理由で、上告人の請求を排斥したのは正当であつて、この点についてなんら違法なことはない。故に、この点に関する上告理由も採用するに由ない。

よつて本件上告は理由がないから、民事訴訟法第四〇一条によつて本件上告を棄却し、上告審での訴訟費用の負担について同法第九五条、第八九条を適用して、主文のように判決する。

(裁判長判事 柳川昌勝 判事 村松俊夫 中村匡三)

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